「頭痛が来る少し前に、目の前がチカチカしたり、ギザギザした光が見えたりする」 「手や口元がしびれるような感覚がある」
もしあなたが片頭痛持ちで、このような不思議な体験をしたことがあるなら、それは片頭痛の「前兆」かもしれません。片頭痛患者さんの約20〜30%に見られるこの現象。実は、単なる視覚の異常ではなく、脳の中で起きている「電気的な嵐」が原因です。
今回は、不思議で少し怖いこの「前兆」の正体と、それが起きた時にどう対処すればよいのか、医師の視点でわかりやすく解説します。
1. これって前兆?代表的な3つの症状
片頭痛の前兆にはいくつか種類がありますが、最も多いのは「視覚」の症状です。
① 閃輝暗点(せんきあんてん)
最もポピュラーな前兆です。
- 視野の一部(中心付近が多い)に、キラキラ・ギザギザした光の波が現れます。
- その光は、数分から数十分かけて徐々に外側へ広がっていきます。
- 光が通り過ぎた部分は、暗くて見えにくくなったり(暗点)、すりガラス越しのようにボヤけたりします。
目を閉じてもこの光は見え続けるため、眼球の病気ではなく「脳」で見ている映像であることがわかります。
② 感覚の異常(しびれ)
視覚症状の後に続くことが多いのが、感覚の変化です。
- チクチクするような感覚やしびれが、手の指先から始まり、腕を伝って、口元や舌へとゆっくり移動していきます。
- 「脳卒中ではないか?」と不安になる方が多いですが、数十分で自然に消えるのが特徴です。
③ 言語障害
稀ですが、言葉が出にくくなったり、言い間違いが増えたりすることもあります。
これらの症状は通常、5分〜60分程度続き、その直後(あるいは症状が続いている最中)に、激しい頭痛が襲ってきます。
2. 脳の中で何が起きているのか?(CSD現象)
「なぜ、こんな奇妙なものが見えるの?」と不思議に思いますよね。 これには「皮質拡延性抑制(CSD:Cortical Spreading Depression)」という現象が関係しています。
簡単に言うと、「脳の神経活動の興奮と抑制の波」です。
- 電気の嵐が発生: 脳の後ろ側(後頭葉・視覚をつかさどる部分)で、神経細胞が突然、過剰に興奮します。
- 波のように広がる: この興奮の波は、水面に石を投げた時の波紋のように、前方の脳へ向かってゆっくり(分速2〜3mm)移動していきます。
- 機能が一時停止: 興奮の波が通り過ぎた後の神経は、一時的に活動が低下(抑制)してしまいます。
この「電気の波」が視覚野を通る時に「キラキラ(興奮)」が見え、通り過ぎた後に「見えない(抑制)」状態になるのです。波が前のほう(感覚野)に進むと、今度は手や口のしびれとして現れます。
つまり、前兆とは「頭痛のメインイベントが始まる前の、脳内のパレード」のようなものなのです。

3. よくある誤解:「予兆」と「前兆」は違います
ここが少しややこしいのですが、医学的には「予兆」と「前兆」は別物です。
- 予兆(Prodrome): 頭痛の数時間〜数日前から起きる変化。
- 生あくびが出る、首や肩がこる、甘いものが食べたくなる、イライラする、むくむなど。
- 「なんとなく調子が悪い」と感じる段階です。
- 前兆(Aura): 頭痛の直前(60分以内)に起きる神経症状。
- 今回解説しているキラキラやしびれなど。
- 「もうすぐ確実に痛みが来る」という明確なサインです。
自分の症状がどちらなのかを知っておくと、薬を飲むタイミングを医師と相談しやすくなります。
4. 前兆が来たらどうする? 正しい対処法
「あ、キラキラが見えてきた…」 この時、焦らずに行動することで、その後の頭痛のダメージを最小限に抑えることができます。
① 安全な場所へ移動する
前兆が出ている間は、視野が欠けたり、平衡感覚がおかしくなったりすることがあります。
- 車の運転はすぐに中止してください。 事故につながる危険があります。
- 高所での作業や、危険な機械の操作も中断しましょう。
② 環境を整える(感覚刺激を遮断)
片頭痛の脳は、光や音に過敏になっています。
- 部屋のカーテンを閉め、薄暗くします。
- 静かな場所で横になります。
- スマホやテレビの画面を見るのはやめましょう(光の刺激が脳をさらに興奮させます)。
③ 薬を飲むタイミング(ここが重要!)
「前兆が始まったらすぐに鎮痛薬(トリプタンなど)を飲むべき?」という質問をよく頂きます。
一般的には、「前兆が終わり、頭痛が始まったタイミング」での服用が推奨されています。
ここには個人差があります。 あなたにとってベストなタイミングは、処方されている薬の種類によっても異なるため、必ず主治医の指示に従ってください。 最近登場した新しいタイプの薬(レイボーなど)は、タイミングを気にせず使えるものもあります。
5. 危険な「偽物」を見分ける(脳卒中との違い)
最も注意していただきたいのが、「片頭痛の前兆に似た、脳梗塞や脳出血の症状」です。 以下の特徴がある場合は、迷わず救急車を呼ぶか、すぐに脳神経外科を受診してください。
【危険なサイン】
- 突然完成する: 片頭痛の前兆は数分かけて「徐々に」広がります。一方、脳卒中は「突然、ガツンと」症状が出ます。
- 60分以上続く: 通常の前兆は1時間以内に消えます。それ以上続く場合は異常です。
- 初めての経験が40歳以上: 若い頃から頭痛持ちだったわけではなく、中高年になって初めて前兆が出た場合は、詳しく検査する必要があります。
- 麻痺がある: 手足が「しびれる」のではなく、「力が入らない」「動かない」場合は緊急事態です。
まとめ:前兆は脳からの「休め」のサイン
前兆現象は、視界が遮られるなど不快なものですが、見方を変えれば「これから大きな痛みが来るから、今のうちに準備をして休んでください」という脳からの強力なアラートでもあります。
このサインを無視して仕事を続けたり、無理をしたりすると、その後の頭痛が重症化しやすくなります。
「たかが頭痛、たかがキラキラ」と思わず、症状が頻繁にある場合や、薬が効きにくい場合は、頭痛外来への受診をお勧めします。
最近では、CGRP関連製剤という画期的な予防薬も登場し、前兆のある片頭痛の発作回数を劇的に減らせるようになってきています。
「キラキラ」に怯えない生活を取り戻すために、ぜひ一度ご相談ください。