「生理痛がひどくて、毎月何日も鎮痛薬を飲んでいる」 「最近、頭痛の回数が増えて、薬が効きにくくなってきた気がする」
もしあなたがそう感じているなら、それは単なる「体質の変化」ではないかもしれません。 実は、痛みを抑えるために良かれと思って飲んでいる「鎮痛薬の使いすぎ」が、脳のシステムを書き換え、より痛みを感じやすい体質=「中枢性感作(ちゅうすいせいかんさ)」を作り出している可能性があるのです。
今回は、頭痛外来で非常に重要なテーマである「中枢性感作」と「MOH(薬物乱用頭痛)」の関係、そしてその出口について詳しく解説します。

1. 脳の「痛みボリューム」が壊れる? 中枢性感作とは
通常、私たちの体は、どこかにダメージを受けたときに「痛み」という信号を脳に送ります。しかし、強い痛みが長期間続いたり、頻繁に繰り返されたりすると、脳の神経系に変化が起こります。これが中枢性感作です。
痛みの「感度」が異常に上がる状態
中枢性感作をわかりやすく例えると、「脳内の痛みのボリュームつまみが、最大(MAX)のまま錆びついて戻らなくなった状態」です。
本来なら「3」くらいの小さな痛み信号であっても、感作された脳を通ると「10」の激痛として処理されてしまいます。さらに悪化すると、普段なら痛みとして感じないような刺激(軽い光、音、におい、気圧の変化、あるいは皮膚への接触)さえも「痛み」として誤認識するようになります。
なぜ生理痛から「頭痛体質」になるのか
生理痛(月経痛)で毎月激しい痛みを我慢し続け、その都度、場当たり的に鎮痛薬を大量に流し込む……。この繰り返しは、脳にとって「痛みの過剰学習」になります。 脳が「痛み」に対して常に警戒態勢をとるようになり、結果として片頭痛や緊張型頭痛を併発したり、それらが慢性化したりする引き金になるのです。
2. 薬が痛みを引き起こす「MOH(薬剤使用過多による頭痛)」
中枢性感作とセットで語られるのが、MOH(Medication Overuse Headache:薬剤使用過多による頭痛)です。
「痛くなるのが怖いから、早めに薬を飲む」 「薬を飲んでもスッキリしないから、追加で飲む」
こうした行動が習慣化し、月に10日〜15日以上鎮痛薬を服用している状態が3ヶ月以上続くと、脳は「薬があるのが当たり前」という状態になります。すると、薬が切れてきた時に脳がリバウンド(反跳)を起こし、かえって激しい頭痛を引き起こすようになります。
MOHのチェックリスト
以下の項目に当てはまる方は、MOHの可能性があります。
- 以前に比べて、鎮痛薬の効きが悪くなった。
- 月に10日以上、鎮痛薬を飲んでいる。
- 朝起きた時から頭が重く、とりあえず薬を飲む。
- 外出時、薬を持っていないと不安でたまらない。
- 薬を飲んでいるのに、頭痛の回数や日数がどんどん増えている。
MOHは、単なる「薬の使いすぎ」ではなく、「薬によって脳の痛み抑制システムが麻痺し、中枢性感作が悪化した状態」と言えます。
3. なぜ「市販の鎮痛薬」がリスクになるのか
生理痛や頭痛でよく使われる市販の鎮痛薬(ロキソニン、イブ、バファリンなど)は、手軽に買える反面、使い方を誤るとMOHに直結します。
特に、カフェインが含まれている配合剤は注意が必要です。カフェインには一時的に血管を収縮させ、痛みを紛らわせる効果がありますが、連用すると「カフェイン切れ」による頭痛を招き、依存性を高める原因になります。
「市販薬だから安心」ではなく、「市販薬を月に10日以上手放せないなら、それは依存と感作のサイン」と捉えるべきです。
4. 負のループから抜け出すための「3つのステップ」
中枢性感作やMOHの状態にある脳をリセットするには、根性論ではなく、医学的なアプローチが必要です。
ステップ① 原因となる薬を「一旦やめる」
「薬をやめたら、痛くて動けなくなる!」と不安になるのは当然です。しかし、使いすぎている薬を中止(あるいは制限)しなければ、脳の過敏性は戻りません。 頭痛外来では、薬をやめることで起こる「離脱症状(ひどい頭痛や吐き気)」を、別の種類の薬でコントロールしながら、安全に進めていきます。
ステップ② 「予防薬」で脳の興奮を鎮める
これまでの治療が「火が起きてからの消火作業(鎮痛薬)」だったのに対し、これからは「火が起きないための防火対策(予防薬)」に切り替えます。 抗てんかん薬、抗うつ薬(痛み止めとして使用)、血圧降下薬、あるいは最新のCGRP関連製剤などを使って、脳の「ボリュームつまみ」を正常な位置に引き下げていきます。
ステップ③ 生理痛そのものをコントロールする(婦人科連携)
もし中枢性感作の入り口が生理痛であるなら、婦人科と連携して低用量ピルやホルモン療法を行い、生理痛の強度そのものを下げることも非常に重要です。脳に「激しい痛み」という刺激を送らせないことが、脳のリセットに繋がります。
5. 最後に:痛みへの「恐怖」から卒業しましょう
中枢性感作やMOHに陥っている方は、常に「いつ痛みが来るか」という不安と戦っています。 「痛みが怖いから薬を飲む、薬を飲むから余計に敏感になる」というループは、あなたのせいではなく、脳のシステムが生存のために良かれと思って(過剰に)適応してしまった結果です。
脳には「可塑性(かそせい)」といって、一度変わってしまったシステムを、時間をかけて正しい状態に書き換える力が備わっています。
「もう薬なしでは生きていけない」と諦める必要はありません。適切な予防療法と、薬との正しい付き合い方を身につければ、脳のボリュームつまみを元に戻すことは可能です。
ひとりで悩まず、まずは「最近、薬の量が増えている気がする」と、当院へご相談ください。あなたの脳を「痛みモード」から「リラックスモード」へ戻すお手伝いをさせていただきます。
「逆に、薬を我慢しすぎても悪化する?(Medication Underuseの記事へ)」