〜アミロイドβたんぱくと睡眠の深い関係〜
年齢とともに「最近、人の名前がすぐ出てこない」「鍵をどこに置いたか忘れてしまう」など、物忘れが気になることはありませんか?
多くの方が、「認知症になるのでは?」という不安を感じる瞬間だと思います。
その不安に関係するキーワードの一つが「アミロイドβ(ベータ)」というたんぱく質です。これはアルツハイマー型認知症の発症に深く関与しているとされ、長い時間をかけて脳に蓄積し、神経細胞の働きを妨げてしまうことがわかっています。
ところがこのアミロイドβ、実は健康な人でも毎日少しずつ作られているのです。では、なぜ誰もが認知症になるわけではないのでしょうか?
その理由の一つが、「きちんと排出されているかどうか」にあります。
睡眠中に脳の「お掃除」が行われる
近年の研究により、脳には「グリンパティック系(glymphatic system)」と呼ばれる、老廃物の排出システムが存在することが明らかになってきました。このシステムは私たちが眠っている間、特に“深い眠り(ノンレム睡眠)”の時間帯に活発に働き、アミロイドβを含む老廃物を脳の外へと洗い流してくれるのです。
つまり、よく眠ることで、脳はしっかりと「お掃除」され、アミロイドβの蓄積を防ぎやすくなるのです。
逆に、睡眠不足や眠りが浅い状態が続くと、この排出がうまくいかず、アミロイドβが脳内にたまりやすくなります。
実際に、アメリカの研究では「一晩徹夜するだけでも脳内のアミロイドβ濃度が有意に上昇する」という報告もあります。
睡眠を整えることで、認知機能を守る
良質な睡眠を確保するためには、以下のような生活習慣が大切です。
- 毎日決まった時間に寝て、起きる
体内時計を整えることは、深い眠りを得るための基本です。 - 寝る直前はスマホやテレビを控える
強い光や情報の刺激は、脳を覚醒させてしまいます。 - カフェインやアルコールを避ける
夕方以降のカフェインや寝酒は、眠りの質を下げる原因になります。 - 適度な運動や朝の散歩を心がける
日中にしっかり体を動かすことで、夜の自然な眠りが促されます。
これらを少しずつ取り入れていくだけでも、脳の健康を守る第一歩になります。
最後に
もの忘れの原因は様々ですが、睡眠と認知症の関係は、これからますます注目される分野です。
「しっかり寝ること」は、単に疲労を回復するだけでなく、脳の老化を防ぐ大切な「投資」でもあります。
毎日の睡眠を見直すことで、10年後、20年後の自分の記憶力を守ることにつながるかもしれません。
当院では、認知機能や生活習慣に関するご相談も受け付けております。お気軽にご相談ください。
参考文献
- Xie, L., Kang, H., Xu, Q. et al. Sleep drives metabolite clearance from the adult brain. Science. 2013;342(6156):373–377.
(睡眠中に脳内の老廃物が排出される「グリンパティック系」についての基礎研究) - Shokri-Kojori, E. et al. β-Amyloid accumulation in the human brain after one night of sleep deprivation. PNAS. 2018;115(17):4483–4488.
(たった1晩の睡眠不足でアミロイドβが増えるというヒト研究)
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