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亀山市能褒野町 内科、外科、脳神経外科、リハビリテーション科

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頭痛

「薬の飲み過ぎ」と同じく怖い? 片頭痛を悪化させる「Medication Underuse(不十分な治療)」

「頭痛薬を飲みすぎると、かえって頭痛がひどくなる」 この薬物乱用頭痛(MOH: Medication Overuse Headache)という言葉は、近年多くのメディアで取り上げられ、頭痛持ちの方々の間で広く知られるようになりました。

その結果、診察室ではこのような声をよく耳にします。 「薬に頼りたくないので、ギリギリまで我慢しています」 「月に数回は寝込むほどの痛みですが、市販薬でなんとか耐えています」

しかし、最新の頭痛医学の研究において、薬の飲み過ぎと同じくらい、あるいはそれ以上に深刻な問題として警鐘が鳴らされている概念があります。 それが「Medication Underuse(薬物使用過少=治療不足)」です。

結論から申し上げますと、「中途半端な治療や痛みの我慢は、片頭痛という病気を進行させ、脳を過敏な状態へと変質させてしまう」ことがわかってきました。今回は、なぜ「我慢」がいけないのか、最新のエビデンスと共にお話しします。

1. 「効かない薬」を使い続けるリスク

「とりあえず市販の鎮痛薬を飲んだけれど、痛みは半分くらいしか減らない。でも、飲まないよりはマシだから……」 このような状態で何年も過ごしている方は要注意です。

2015年のリプトン博士らの研究(Lipton RB, et al. Neurology. 2015)において、衝撃的なデータが示されました。 「急性期治療(痛み止め)が十分に効いていない患者は、1年以内に慢性片頭痛(CM)へ進行するリスクが約2.5倍になる」というのです。

慢性片頭痛とは、月に15日以上も頭痛が起こる重症化した状態です。つまり、「痛みを完全に消し去れない中途半端な治療」を続けていると、脳が痛みを記憶し、次の発作を呼び寄せやすくなり、結果として頭痛の頻度が激増してしまうのです。 「薬を飲んでもスッキリ治らない」という状態は、単にその日が辛いだけでなく、未来の自分を苦しめる要因になり得ます。

2. 脳が痛みを学習する「中枢性感作」

なぜ、治療不足だと頭痛が悪化するのでしょうか? その鍵となるのが「中枢性感作(Central Sensitization)」というメカニズムです。

片頭痛発作が起きている時、脳の中では炎症(火事)が起きています。 適切な強度の薬を、適切なタイミングで使い、速やかに鎮火できれば、脳へのダメージは最小限で済みます。しかし、薬を飲むのを我慢したり、効果の弱い薬で痛みを長引かせたりすると、脳の神経が興奮し続け、「痛みの回路」が強化されてしまいます。

これを繰り返すと、本来なら痛くないはずの光や音、軽い動作、気圧の変化といった刺激でさえも、脳が「激痛だ!」と誤認識して大騒ぎするようになります。これが中枢性感作です。

リプトン博士らの最近の研究(Lipton RB. et al. Journal of Neurology. 2023)では、「適切な強度・タイミングで頭痛を早めに抑え込んだ方が、中枢性感作の進展を抑えられる」とされています。 中途半端な治療で痛みのオン・オフをダラダラと繰り返すことは、脳に「痛みのエリート教育」を施しているようなものなのです。

3. 「予防薬」は早ければ早いほど良い

ここまでお話ししたのは、発作が起きた時の「痛み止め(急性期治療)」の話でしたが、発作を起こさないようにする「予防療法」においても、Underuse(使用不足)は深刻な問題です。

以前より、本来なら予防薬を使うべき頻度の頭痛があるのに、多くの患者さんが予防療法を受けていないことが指摘されてきました(Lipton RB, et al. Neurology. 2007)。 そして、近年の画期的な新薬である「抗CGRP抗体薬(注射薬など)」の登場により、「治療を開始するタイミング」の重要性が浮き彫りになっています。

2024年の最新研究(Pozo-Rosich P, et al. JAMA Neurol. 2024)によると、この強力な予防薬は、「慢性化してしまってから使うよりも、反復性片頭痛(ときどき痛む段階)の早期で開始した方が、高い効果が得られる」ことが示されました。

「まだ注射をするほど重症じゃない」「もう少し悪くなったら考えよう」と先延ばしにすることは、最も治療効果が高い「ゴールデンタイム」を逃していることになります。がんは早期発見・早期治療が鉄則ですが、片頭痛もまた、進行する前に食い止めることがカギとなるのです。

4. 2025年、頭痛治療のパラダイムシフト

これまでのエビデンスを統合し、頭痛治療の常識は大きく変わろうとしています。

2025年、国際頭痛学会の重鎮たちは、片頭痛治療の目標をこれまでの「単なる発作の予防」から「疾患進行の予防(Prevention of Disease Progression)」へと転換すべきだと提唱しました(Pozo-Rosich P, et al. Cephalalgia. 2025)。

これは非常に大きな意味を持ちます。 これまでは「今日の発作をどう凌ぐか」が焦点でしたが、これからは「将来、脳が痛みに対して過敏になる(疾患が進行する)のをどう防ぐか」を見据えて治療を行う時代になったのです。

つまり、 “頻回の発作と不十分な急性期治療こそが、片頭痛進行の主要なドライバー(推進力)である” という認識を持つことが、医師だけでなく患者さん自身にも求められています。

MU

まとめ:我慢せずに「ゼロ」を目指そう

「Underuse(治療不足)」がもたらすリスクについてお話ししました。 もし、あなたが現在お使いの薬で以下のような状態であれば、それは「治療不足」かもしれません。

  • 薬を飲んでも、痛みが完全に消えるまでに2時間以上かかる。
  • 薬を飲んだ後も、なんとなく頭が重い、スッキリしない。
  • 「薬を飲むのが怖い」からと、痛みがピークになるまで我慢している。
  • 月に数回、生活に支障が出る頭痛があるが、予防薬は使っていない。

このような中途半端な状態を放置することは、将来の「慢性片頭痛」への招待状を受け取っているようなものです。

片頭痛治療のゴールは、「なんとか我慢できる状態」ではありません。「痛みがない(Pain Free)状態」に速やかに戻り、日常生活を制限なく送れることです。 そして、そのために十分な強度の治療を行うことは、決して「甘え」や「薬への依存」ではなく、あなたの脳を守るための「積極的な防衛策」なのです。

「たかが頭痛」と我慢せず、頭痛専門医に相談してください。早期に適切な介入を行うことで、片頭痛の進行は食い止めることができます。痛みに支配されない人生を取り戻しましょう。

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